「18歳の“作法”」

『18歳の“作法”』

 Jリーグが開幕して、今年で20年になる。それは、プロサッカークラブとして浦和レッズが歩んできた月日ともほぼ重なる数字だ。欧州のリーグ、クラブからすれば、まだわずかと言えるものかもしれないが、10年一昔、という言葉を考えれば、それなりの月日を日本のプロサッカーが積み重ねてきた、とも言える。
 そして、それはファン・サポーターも同じだろう。Jリーグ草創期に20代だった青年は子供を持ち、そのときに生まれた赤ん坊は、今や20歳前後になっているのだからーーー。

 「生まれる前からです。父が好きで、それで」
 レッズに関わったきっかけはいつかと尋ねると、18歳の嶋田玲亜(れいあ)は、はにかんだ笑顔を見せながら、そう答えた。
 父親の博文が補足する。
 「(彼女が)生まれた翌年の94年には、おぶりながら、市原臨海(競技場)に連れて行ったりしていましたよ。試合の前や後に、スタンドの後ろの方でおむつを換えたりしていました」

  私のパソコンのフォルダーには、MDPに送られてきた投稿のテキストファイルが入っている。嶋田玲亜という名前を入力し、検索すると、古いもので08年、彼女が15歳だったときに送ってきてくれたMDPへの投稿が見つかる。もちろん、それ以降も投稿は送られ続けてきているので、昨年のMDPの中にも、彼女の名前はある。
 最初に彼女の投稿を見たとき、新鮮な驚きを感じた。15歳という、思春期を迎えているであろう女の子がファッション雑誌やアイドル雑誌などではなく、浦和レッズのMDPに投稿する。それも、「○○選手、頑張って」などではなく、簡潔に観戦した試合の感想やチームへの要望、ときには寸評にもなっていると思える投稿を送ってくる。
 この子はどんな子なのだろうか、ふとそんなことを思っていた。
 そして、そうした関心が、取材への動機へと変わり、父娘に会って話を聞くことになったのだ。

 博文は、愛知県で生まれたが、3歳で上尾市に引っ越し、現在も住んでいる。
 Jリーグが誕生したとき、どこかのチームを応援したい、と考えたが、地元という意識から、やはりレッズだろう、ということで、応援するようになる。

 そして、当時からJリーグの中で先進的だったサポーターのスタイルに惹かれ、自身もそちら側に身を置くようになった。
 駒場スタジアムが改修し、シーズンチケットの席が増えると迷わず応募し当選する。それからホームゲームは欠かさず見ている生粋のサポーターだ。
 長女の玲亜は1993年に生まれた。名前は、映画『スターウォーズ』のヒロイン、レイア姫にちなんでつけたそうだ。
 この取材をしたとき、彼女はちょうど大学受験を終えたばかりだった。ふだんは、どんなことをしているのかと尋ねると、少し照れながらこう話してくれた。
 「最近は、K-POPにはまっていて、そういうことばかりしているんですけど、あとはふつうに友達と遊んでいます(笑)」
 その発言を聞いた父は、「まあ、年相応に、ジャニーズにはまり、K-POPにはまり、流れがこうなんだな、って」と笑顔を見せる。
 2人の話からもわかるように、実際に会った彼女は、18歳らしい若々しさとかわいらしさを持ったごく普通の女子高生という印象だった。

 だが、レッズへの思いには、こちらがハッとさせられるほどの確かなものがあった。

 ミシャ監督のもと、新たなスタートを切り、やや風向きが変わりつつあるとはいえ、2006年のリーグ優勝から2007年のACL優勝を境に、レッズは現在も難しい時期にいるのは間違いないだろう。そして、昨季は、とりわけ厳しいシーズンだった。
 スタジアムにいれば、ネガティブなもの、見たくないような光景も見ることがあったに違いない。父の博文ですら一部のサポーターの反応には、「思うところがあった」と言うくらいだから、多感な10代である彼女なら、なおさらそうした残念な気持ちになることもあっただろう。そして、ピッチの中の結果にも心を痛めたと思う。

 だが、彼女は言う。
 「何か精神論になっちゃうんですけど、プレーから本気さとかが伝わってこないと、選手たちにも、どうして? とか思っちゃいます。ただ、みんなレッズの選手で、レッズの選手が好きだと思っているので、そこでそう思っても、次のスタジアムには持ち越さない、そう思っています」

 ネガティブな感情を次のスタジアムに持ち越さない。そのときの凜とした言い方に、それが彼女のサポーターとして大切にしている”作法”なのだと思った。

 「負けたらすごく悔しくって、なんか埼スタから帰る道で、私はだまったりとかしちゃいます。父と兄は試合について、あそこが良くなかったとかいろいろ話しているんですけど」
 「負けた日はすごく落ち込んでいるんです。でも寝て、次の日、起きたらもう大丈夫です」
 彼女は、そう言って笑顔を見せる。

 それでは、試合中はどんなふうに見ているのだろうか。
 「小学生くらいまでは、サッカーのこととかわからず、ただレッズが好きという感じでスタジアムに行っていて、サッカーを見ているという感じではなかったんですけど、中学、高校になってくると、だんだんサッカーのこともわかるようになってきて、あ、そこ左とか言っちゃったりします。だんだん、サッカーを楽しんでいる感じになってきました」
 家では、博文がレッズ関連の記事を読んで、彼女に、「ここは絶対に読め!」と勧めることもあると言う。レッズが父と娘のコミュニケーションツールにもなっているわけだが、同じ年ごろの同性にサッカーやレッズの話ができる友人はいるのだろうか。
 「います。同じ学校に、違うチームが好きな子が1人いて、あとは地元の友達で試合に一回連れて行ったら、すごくレッズが好きになってくれました。だから多くはないし、確かに学校とかであまり話せないのはちょっとさみしいんですけど、でも大丈夫です。家で話せるので(笑)」

 サッカーは人生と同じで、喜びよりも苦しみを体験することの方が数の上では多い気がする。ここまでレッズを応援していて、良いことはあったのだろうか。ふと、そう問うと彼女は次のように答えた。
 「まだ、あまりよくわからないんですけど、Jリーグで優勝したり、ACLを優勝したりしたときすごくうれしかったし、そういときは学校の友達とかからも、優勝したね、とか言われて、ちょっと自慢げに話したりとか。あとは最近うまくいってない時期ですけど、選手の頑張っている姿を見ているとすごくうれしいし、一緒に頑張っている感じがして、それはすごくいいな、と思います」

 そして、こうも話していた。
 「去年は勝てなくて残念だったんですけど、でも勝てないからよけいに応援したというか。もっとレッズに深く入り込んで、こういう時期もあるけど絶対何年か後には強くなるんだって思っていました。今も思っています。私もまだ18だし、これからの人生もレッズと一緒に行くから」
 「もちろん、なんで勝てないんだろうとか思ったりもしたし、去年の途中に嫌になったこともあったんですけど・・・、それでも、またレッズの試合を見てやっぱり応援するって思ったんです。なんかよくわからないんですけど(苦笑)」

 取材も終盤になり、今季について聞いた。すると、やはり「期待」という言葉が返ってきた。
 「特に監督に期待しています。去年も期待していたんですけど、でも今年はやってくれるんじゃないかって。もちろん、1年目ですぐには難しいとは思うんですけど」
 
 やはり、思い描くのは、ACLなどを戦っていたときの強いレッズだそうだ。
 「“赤い悪魔”って言われてたじゃないですか。そういうふうに言われるのってレッズにしかできないことだと思うので、そうなって欲しいと思います」
 そう話す彼女に、ちょっと意地悪な質問をぶつけてみた。

 ――でも、“赤い悪魔”って、ヒールな存在、良いもんと悪いもんだと、悪いもんって感じがしません?

 「あ、そうですね(苦笑)」
 一瞬同意したが、間髪入れずにこう返してきた。
 「でも、私からすると悪いもんではないので!」

 明快なその返答は、かわいらしさの中にも芯の強さを感じさせるものがあり、約30年前のあの映画のヒロインを思わせてくれた。
 

 そのとき、彼女の反応を見た父親は、思わず顔をほころばせていた。
                         <了>

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