「レッズ談義」

「レッズ談義」

 「勝って欲しいというのはもちろんです。楽しいのもすごく大事なんですけど、勝ちがないと良い方向に進んでいかないですし。かといって、06年のようなサッカー・・・」
 少し間を開けて、彼はこう話した。
 「でもあのときも楽しかったんですよね。だから、難しいんですけど。やっぱり勝って欲しいというところは強いですね」

 今季のMDPでは、読者の方の投稿と合わせて、ファン・サポーターの方たちにスタジアムで取材し、そのコメントを掲載させていただいている。
 3月14日、埼玉スタジアムのコンコースでその取材をさせてもらっているとき、今季のレッズに期待するところは? と聞くと、Jリーグ元年からサポーターをしているという37歳の柴正義はそう答えてくれた。
 このとき、私が特に興味を抱いたのは、「06年のようなサッカー・・・」「でも、あのときも楽しかったんですよね」という彼の発言だった。
 06年ごろのサッカーと言えば、タイトルを獲ったサッカーでありながら、ときに否定的なニュアンスで語られることがある。守備的で個人の能力に頼ったサッカーだった、と。

 人それぞれのサッカー観があるため、一つに限定することは難しいが、現代において魅力的なサッカーというと、おおむねFCバルセロナを初めとするコンビネーションを重視したサッカー(決してバルセロナのような形が唯一の正解というわけではないが)ということが言えると思う。
 それは今季のレッズのサッカーに対するスタジアムでの反応を見たとき、おそらくファン・サポーターを含めた“浦和レッズ”の中でも、おおむね共有されていることなのではないか、と想像する。
 その中で、“でも”あの時代のサッカーを楽しかった、と言った柴に、私は純粋に話を聞いてみたいと思った。そして、MDPの取材とは別に、後日、話を聞かせてくれるよう頼み、それから少したった夜、喫茶店であらためて会った。
 柴は仕事帰りだったが、席に着くと疲れた様子も見せず、メモを取り出した。どうやら、前日から自身の考えをまとめてくれていたらしい。ありがたく思うとともに、律儀な性格をしているのだなと思った。
 そして彼は、おもむろに自身のレッズへの思いを語ってくれた。

 ―――レッズをサポートする、そのことが何のためというのは、正直、問われるまで考えたことがなかったです。だから僕自身の言葉で、スタジアムで取材されてから何が一番妥当な言葉なのかを考えていたんですけど、試合中は雨の中、寒い中でも応援するわけですよね、スタジアムで。

 それは何なのかなって考えたら、たぶん “家族”なんじゃないかなって思いました、レッズが。だから、ケガをした直輝のことも気になるし、試合に出ていないスピラのことも気になるし。
 Jリーグが始まった当初、僕は高校生でした。もともとは野球をやっていて、出身は大宮なんですが、地元には何もなかったんですよね。そこにサッカーが来る。ブームに乗った形でサッカーを見始めて、それからスタジアムの雰囲気が良かったのと、若かったから騒げるというのが楽しくて、レッズにはまっていったという感じです。
 妻もね、最初はサッカーにはうとかったんですけど、自分がサッカーが好きだったからスタジアムに連れて行ったんです。でもね、連れて行くにも連れて行き方ってあって、あの、いきなりゴール裏に連れて行ったら“ひく”なって思ったんです。だから、バックスタンドのSCから見て、サッカーってこういう感じなんだよって伝えて。楽しいところなんだよってまず教えました。それで本当は俺、あそこに行きたいんだよねって、だんだん回数を重ねるごとにゴール裏に近づいていって。2年つきあって結婚しているんですけど、徐々にならすような感じでね(笑)。
 今は、北のゴール裏、メーン側の5、6列目あたりにいます。12,3人のグループで見ているんですけど、その人たちはスタジアムで会った人ばかりなんです。
 やっぱりその人たちも旦那さんと奥さんで来ているという感じで、横浜国際とかで会って、埼スタでもまた会って、あれ!? 見るところが近いんだねって感じで、一緒に見るようになって。前日抽選とか行けたら場所を取りやすいから、みんなで持ち回りでやるようになりました。そうじゃないと、あそこのああいう場所って取れないんですよ。
 そうそう。選手たちって、そういうこと、知っていますかね。一度、若い選手なんかには、前日抽選とかの様子を見に来てもらいたいです。僕らがどんな思いで来ているか伝わると思うし、やっぱりサポ、選手、クラブが同じ温度にならないと、良いものは作っていけないと思うから。
 ふだん、だいたい先乗りする当番でないときは、並ばないで入れるくらいの時間にスタジアムに行きます。2時間くらい前にはスタジアムに行っているかな。それで先に入っている人たちと合流して、スタジアムの「GO REDS GO」が始まると話ができないから、その前に話をして気持ちを高めていって。それで、45分前くらいになるとGKが出てきますけど、そうなったらますます話なんかできない。そこからはもう勝たせたい、というモードに入っていきます。
 これまでで最も印象強く残っている試合? 04年のマリノスとのチャンピオンシップと、07年のACLの埼スタでの準決勝です。あの2試合はスタジアム中の一体感をものすごく感じた試合でした。
 自分はスタジアムに来る人の思いは人それぞれだと思うし、それでいいと思っています。たぶん勝って欲しいという人もいるし、もしかしたらあまり勝つことにはこだわっていない人もいるかもしれない、この選手を応援したいということが強くてね。でも自分は、自分たちの応援で“勝たせたい”という思いが強いんです。でね、04年と07年のその埼スタでの2試合は、このチームを勝たせたいという雰囲気が、スタジアム全体にあったんではないかと感じたんですよ。出ている声の大きさが、もう違ったと思います。入場者数を見返すと、あの2試合は6万人にいっていない。でも、あのときの声の大きさは半端なかったと思うんです。本音を言えばね、みんなも勝たせたいと思って応援してくれるのがいいんじゃないかなという思いもあるから、思わずみんなやればできるじゃん! って思いました(笑)。
 だからね、正直に言うと、埼スタよりもアウェイのときのゴール裏の雰囲気の方が好きなんです。たぶん、アウェイのときって勝たせたいというような、自分と似た思いを抱いている人たちが集まっている気がするんです。相手が多いところや鹿島とか、集団でまとまっているような相手だと、こちらもまとまって頑張らないと、と思いますし。
 僕ね、さっきもちょっと言いましたけど、野球をやっていたんです。小中高、大学と。野球も見るには見るんですよ。でも、なぜか、今はサッカーの方が忙しくなってしまいました。
 一度、レッズサポーターになってから、プロ野球を見に甲子園に行ったことがあるんです。球場は確かに盛り上がっているんですけど、なんか雰囲気が違うんですよ。やっぱり、あの雰囲気が好きなんです、北のゴール裏・・・。本当に勝たせたいという思いを持った人たちが、ぐっとゴール裏には集まっている、あの感じ。
 去年? やっぱりつらかったです。ああいう状況だったから。その中で自分の意思表現って何かなって考えたときに、自分がやったのは、2つのことでした。スタジアムに行って応援すること、それと、シーズンチケットを更新しないこと。
正直、ここ最近のクラブの姿勢とかには思うところがあったんです。でも選手は頑張っている。だからスタジアムに行って応援はしたい。でも、クラブにはそうした意思表示をしたかった。だから、シーチケを更新しないようにしました。そういう意思表示をすることで、少しはクラブにも伝わるかなって思ったから。
 でもね、今季の補強とかクラブの姿勢を見て、変わっていこうとしてくれるのかな、って感じられたから、またシーズン前に、シーチケを購入しました。今は、シーチケが購入しやすい状況だからできることなんですけどね。
 本当に去年落ちなくてよかったなと思うんですよ。
 FC東京や柏とかを見て、落ちて一度鍛え直した方がいい、その方が強くなるよ、って言う人もいるんですけど、僕は違うと思うんです。今季J1に残ったからこそ、阿部ちゃんが戻ってきたり、槙野が来たりしていると思うんですよ。
 それと、若い選手が勝点1や1ゴールを取ることの難しさを経験できたのはよかったのかなとは思うんですけど、それもすべて結果論で、J1に残れたから言えることで、もしこれが残れていなかったら、こんなこと言えないですしね・・・・・・。
 
 
 彼は、本当に楽しそうにレッズの話をしてくれた。私は、その中で聞きたかった質問をした。
 
 06年のようなサッカーも楽しかった――。
 彼によると、その真意は、やはり93年のころの「お荷物」と言われていた時期に端を発しているらしかった。当時、本当に勝つことが、いや、1点を取ることが難しい時期を過ごしていた。その経験がある彼にとって、勝つこと、それが大切なことだったのだ。
 04年には横浜F・マリノスとのチャンピオンシップに進み、PK戦で敗れてもいる。そのときには頂点を懸けて戦うこと、そしてそのふだんとは重みの違う試合で勝つことの難しさを感じる経験もした。
 06年は、そのリベンジを果たす、夢だった頂点への道を駆け上がっている時期だった。だから、ピッチで選手たちが見せるパフォーマンスが結果へと直結していく、そのこと自体が楽しかったのだ、と。

 取材は1時間を軽く超えていた。それでも、彼は嫌な顔一つせず、レッズの話を自身の目線だけではなく、ときには選手の視点で、ときにクラブの視点で話してくれた。
 もし、周りで聞いていた人がいたなら、取材とは思わなかったかもしれない。
 楽しいレッズ談義、サッカー談義の時間だった。
                           <了>

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